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👩 配信再開のお知らせ


おひさしぶりぶり、ブリ大根〜!

皆様のツアーガイド、清苦正子(きよくただしこ)だよーん。


明日から配信を再開するんだけど、みんな、どんなお話だったか覚えてるかな?✨


ここだけの話、私、よく覚えてなくてぇ💦 だからね、私のためにも、これまでのあらすじ画像を作ってみたよ!🎨 私らしく、アニメタッチにしてみた。えへ。

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🖼️ 真ん中の絵:そう!あの、にっくき(?)ソステネがプリスカを襲った衝撃のシーン。


🤍 左上の美しい女性:フィベが真っ白な亜麻布を差し出しているシーン。覚えてる?


📖 右上の男性:アクラが、フィベと伯母のキュテレアに福音を詳しく語り聞かせているシーン。


💧 左下の女性:子育てが失敗だったのでは……と、静かに胸を痛めるリダ。


🙏 右下の二人:手を取り合って祈りを捧げるプリスカとフィベ。


思い出してきた?

明日から、どんな物語が再開するんだろうね。パウロは?テモテは?プリスカとアクラは?

きゃぁ~~〜〜待ちきれなぁ〜い!💕


あっ、忘れるとこだった。あらすじの画像を作るついでに10コママンガも作ってみたよ。よかったら、見てみてね😊

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それじゃぁ、明日の朝8時にね!



# by manawithpen | 2026-05-10 16:00

753 呪いという名の嘘

「ありがとう、祈ってくれて」


フィベは涙に濡れた顔を上げ、小さく息を吐いた。プリスカはやさしく微笑み、亜麻の手巾を差し出した。


「あら、これ」


フィベはその手巾を見つめた。それは、伯母キュテレアと共にプリスカを助けたあの日、彼女の涙を拭うために渡したものだった。


「ほんとうなら、新しいものをお渡しできれば良かったんだけど……」


プリスカは少し目を伏せた。石畳に倒れ込んだときの冷たさが、掌によみがえる。


「これ、まるで真新しい手巾みたいだわ。きれいに洗ってくださって、ありがとう。とても嬉しいわ」


フィベは手巾を丁寧にたたみ、胸元にしまった。今日は、祈ってもらうために、プリスカを訪れていた。過去を打ち明け、心の深い傷に聖霊が触れてくださることを願って。


革細工屋の二階、夫婦の私室には、春のやわらかな光が差し込んでいた。


「若くして嫁いだの。十六のときだったわ」


窓の外、遠くの街並みに目を向けながら、フィベは打ち明けはじめた。


「けれど、夫はほどなくして病に倒れ、帰らぬ人となってしまって。両親は、まるで追い立てるように次の縁談を探し始めたわ」


冬の星のように澄んだ瞳。白い肌に薔薇の花びらを散らしたような頬。その美しさを思えば、次の嫁ぎ先もすぐに決まったのだろうとプリスカは思った。


「……ところがね、次の方も婚礼の直前に息を引き取ったの」


えっ、と声を上げかけ、プリスカは慌てて口を閉じた。


「それならばと、両家は亡くなった婚約者の弟とわたしを添わせたわ。けれど、数カ月も経たないうちに海難事故に遭って……行方が知れなくなって。わたしは実家に返されたの」


声が、風にかき消されそうなほど弱々しくなっていく。


「それ以来、わたしは夫を殺す女という悪名を着せられたの。両親までが『おまえは神に呪われた娘だ』って……」


唇をきゅっと引き結び、こみ上げてくるものを押し戻す。


「こんな恥ずかしい娘を外に出すことはできない。そう言われて、家に閉じ込められた。炊事、洗濯、掃除……それだけの毎日」


冷たい扱いや悪名そのものよりも、“自分は神に呪われた者で、もう神に愛されることはない”という絶望が、徐々に心を蝕んでいった。


「わたし、学ぶことが大好きだったの。本を読んだり、知識のある人の話を聞いたりして、知らなかったことを知るのがほんとうに好きだった」


小さく息を吐き、足もとに視線を落としたまま続けた。


「でも両親は、呪われた身のおまえには知識など無意味だと言って、すべてを取り上げてしまったの」


プリスカは立ち上がり、フィベの隣に腰を下ろした。


「このまま、知識という光も差さない闇の中で、一生を終えるのだろうか……。そんなふうに思ったわ。それは、生きながら死んでいくのと同じだと思った」


フィベはプリスカに顔を向けると、少しだけ声を明るくした。


「そのときよ。伯母のキュテレアが……ケンクレアに住む彼女が、わたしの窮状を聞きつけ、助けの手を差し伸べてくれたの」


ある日、家の扉が激しく叩かれた。現れたのは、毅然とした面持ちのキュテレアだった。彼女は一言も発さず、フィベの手を取り、待たせてあった輿へと導いた。両親が声を荒げて立ち塞がろうとしたが、キュテレアの鋭い一瞥に何も言えなくなり、娘を彼女の手に委ねた。


「屋敷に戻った伯母は、これからは自分の好きに生きればいいと言ってくれたわ。もし嫁ぎたいなら、今度こそ、わたしを大切にしてくれる人を探してあげるとも」


プリスカは、こらえていた息をそっと吐き出した。フィベはその気配に気づいたのか、微かに微笑んだ。


「わたしは、もうどこにも嫁ぎたくないと答えたわ。ただ伯母の側で、お役に立ちたいと。……伯母は、わたしに『書物の読み聞かせ』の役を与えてくれたの。彼女は無類の本好きだけれど、近頃は目が衰え、思うように文字を追えなくなっていたから」


「まあ……。あなたの願いが叶えられたのね」


「ええ。小さいころからの夢だったのよ、書物に囲まれて暮らすのが……。だから、今はとても幸せなの。両親のことも、主イエスの教えに従って、すでに赦したわ」


白い頬に薔薇色の微笑みが咲きかけたが、すぐに消えた。


「でも、ときどき不安になるの。明日、この幸せがひっくり返って、また“呪われた女”に戻ってしまうんじゃないかと」


「フィベ」


プリスカはフィベの肩に手を置いた。


「イエスは、あなたを『呪われた女』などとは決して呼ばないわ。『愛する娘』と呼んでくださるわ」


フィベの顔が、静かに崩れた。涙が頬を伝い、彼女は両手で口元を覆った。


「あなたが不安になるのは、よくわかる。でも思い出して。闇の中で光を求めていたあなたに、神はキュテレアを遣わしてくださった。それは、神があなたを見捨てていない証しよ」


プリスカは、フィベの手を包みこんだ。


「一緒に祈りましょうね。あなたの心の傷が癒されるまで、何度でも」


フィベは深く頷いた。ふたりは、もう一度、頭を垂れて祈り始めた。


窓の外では、港へと帰る船の帆が、夕陽を浴びて金色に輝いていた。


🍇🍇🍇🍇🍇


👩 ひゃっほぉ〜〜! 清苦正子(きよくただしこ)でぇーす。


いやぁ~、ここんとこ目が離せない、ハラハラドキドキの展開が続いたわね〜。


アペレとパウロ、そしてテモテの関係がやっと落ち着いたと思ったら、今度はプリスカが襲われるなんて! イリアスやフィベの胸の内にある葛藤も描かれて……。でも、これで一段落……したっぽいよね。ふぅ、一安心。


ってことで、ここでお知らせでぇ〜す!


来週と再来週の配信は、お休みになりまーす。


これからGW(ゴールデンウィーク)に突入するでしょ? みんな、旅行に行ったり子供たちのイベントがあったり、いつもと違うスケジュールで動くかなって。


そうなると「パウロとテモテの物語」をゆっくり読む時間が取れなくて、未読が溜まっちゃうのも申し訳ないし……。なので、ここは思い切って、リフレッシュ休暇をいただくことにしましたぁ!


というわけで、次回の配信は 5/11(月)になりまぁ~す。


ちょっと間があいてしまうけど、パウロたちのこと、忘れないで待っていてあげてね。


追伸

ちなみに筆者は、安定の「通常運転」です!どこへも行かず、ひたすら自宅でパウロとテモテの物語を紡ぎ続ける予定です🖊️






# by manawithpen | 2026-04-23 06:00

752 先回りした愛

裏庭から聞こえるダフネとニコの弾むような笑い声が、開け放たれた窓を抜けて台所まで届いてくる。犬と戯れているのだろう。砂を蹴る音や、時折混じるヴェラの柔らかな笑い声が、午後の光のなかに溶け込んでいた。


「まあ、そんな危ない目に……」


プリスカが路上で襲われたことを話すと、リダは眉をひそめた。


「あのソステネが……。シナゴーグに来る人が減っているとは聞いていたけれど、会堂管理者である彼が、その腹いせにあなたを襲うなんて」


リダの声には怒りがにじんでいた。


「ええ。八つ当たりもあったのでしょうけれど……一番の理由は、わたしが女の身で賛美を導いたり、預言をしたりすることが、彼の目には、どうしても許しがたい不義に映ったみたいなの」


「典型的なユダヤ人の男よね……」


リダは深々とため息をついた。


「女は口を噤んで従順であるべきだ。己の考えを述べる女は慎みに欠ける。賢き女は男の背後に隠れ、影として支えることこそが美徳である――。彼らはそう教え込まれてきたのだから」


「その物差しで測れば、わたしはとんでもないあばずれ女ということになるわね」


プリスカは、裏庭で犬に抱きつくニコの小さな背中をぼんやりと見つめた。無邪気な笑い声が響くたび、あのときの冷たい恐怖が、身体の奥で疼く。


「ソステネが煉瓦を振り上げたときは、わたし、もうだめだって思ったわ」


「ほんとうに間一髪だったのね。助けてくださった方がいて、よかったわ。ええと……」


「キュテレアとフィベ」


「そうそう、キュテレア。主人から聞いたことがあるわ。ケンクレアの富豪なのでしょう。ユストは時折、琥珀を納めに行くのよ。息を呑むほど壮麗な館だと話していたわ」


プリスカは、キュテレアのやさしく品のよい人柄や、姪のフィベの気さくな性格を、リダに話したくなった。フィベが歩んできた人生を思えば、よくあの朗らかさが損なわれずに残ったものだと驚くばかりだった。けれど、それを口にすれば噂話になってしまう気がして、胸の内に留めた。


「あのおふたりが通りがかっていなかったら、わたし、今頃どうなっていたか……」


「ほんとうに、感謝だわ。神が彼女たちを遣わしてくださったとしか思えない」


プリスカは「ええ、ほんとうに」とうなずき、リダが淹れてくれたセージ茶を口にした。


「おいしい。少し苦みがあるけれど、あと味がすうっと抜けていくわ」


リダも一口飲んで、微笑んだ。


「そうでしょ。以前は苦手だったのだけど、この頃はセージの良さがわかってきた気がするの。年を重ねたせいかしら」


「あら。じゃあ、わたしも年を重ねたということになるわね」


ふたりは顔を見合わせて笑った。窓の外では、黄金色の午後の光が揺れている。


裏庭からは、ニコの「今夜、わんわんと一緒に寝るんだ!」という駄々と、それをたしなめるダフネの声が聞こえてくる。


幼い姉弟から視線を戻すと、リダの表情に翳りが差していた。


「……リダ、何か話したいことがあるんじゃないの?」


リダは茶杯を両手で包んだまま、しばらく黙っていた。やがて、覚悟を決めた目をして口を開いた。


「長男の、イリアスのことなの」


次男のデミスは親の言うことなど聞きもしない子だったが、イリアスは従順で、手のかからない“良い子”だった。リダは、その素直さに安心して、かえって大切なことを見落としてきたのではないかと、声を詰まらせた。


「初めて授かった子だったから……。怪我をさせてはいけない、道を誤らせてはいけないと、わたしはいつも先回りしてきたわ。『これを選べば間違いない』と、あの子が自分で考える前に、親が思う“最善”を押しつけてきた。それが愛だと信じて疑わなかったのよ。でも……」


リダは唇を噛み、視線を落とした。茶杯を握る指先が白くなる。


「でも、それはあの子のためじゃなくて、わたし自身の“安心”のためだったのかもしれない。あの子の未来を守るつもりで、あの子の“今”を奪っていたのかもしれない……」


言葉が途切れ、外で犬が砂を蹴る乾いた音が響いた。


「その結果、イリアスは、親の言うことには素直に従うけれど、自分が何をしていいのかわからない子に育ってしまったの」


リダの声がかすかに震える。


「聞いてしまったのよ。イリアスがデミスに胸の内を明かしているのを」


プリスカは茶杯を置いた。


「……なんて言っていたの? わたしが聞いてもいいことかしら」


「かまわないわ。あの子のために祈ってほしいもの」


深く息をついたあと、リダは、耳にしてしまったイリアスの言葉を打ち明けた。


「あの子ね、こう言っていたの。『不自由なく育ててもらったのに……親に愛されたという実感がない』って。その言葉が、胸に刺さって抜けないの」


リダの涙が、茶杯の縁に落ちた。


「『だって父さんも母さんも、一度だって、僕に何をしたいのか、何が嫌なのか、聞いてくれたことがなかった。僕の意志は、いつも置き去りにされている。ずっとそう思ってきた』……そう言っていたのよ」


プリスカは衝撃を受けた。言葉がすぐには出ず、ただ黙ってリダの震える手を包んだ。


ふたりは、そのまま声もなく祈った。


裏庭では、ニコとダフネの笑い声が、まだ続いていた。



🍇🍇🍇🍇🍇



Jesus loves you 💕

# by manawithpen | 2026-04-22 06:00

751 福音を語る職人

はじめて会ったその日、キュテレアとフィベは午後いっぱいを、アクラとプリスカの店で過ごした。


キュテレアの銀髪は優雅に結い上げられ、上品な刺繍入りの帯が腰を飾っていた。六十を過ぎているとは思えないほど、肌も瞳も艶やかで、プリスカはつい見とれてしまった。  


姪のフィベも伯母譲りなのか、初対面の相手にも物怖じしない、落ち着いた物腰だった。怜悧な瞳にはいたずらっぽい光が宿り、その聡明さにやわらかな愛嬌が添えられている。


ふたりは、プリスカが用意した蜂蜜入りのカモミール茶を飲みながら、革細工店の様子を珍しそうに見渡していた。なめし革の匂いが染みついた作業台、壁に整然と掛けられた道具、窓辺に積まれた革の束――この質素な空間が、彼女たちの目には新鮮に映ったらしかった。


プリスカが通りで襲われた出来事をアクラに伝えていると、フィベがソステネとシナゴーグのことを尋ねてきた。キュテレアは話を姪に任せ、静かに茶を味わっている。


「なぜあの男は、あなたたちにそれほどの憎悪を抱いているのですか」


プリスカが答えるより早く、アクラが口を開いた。


プリスカは驚いて、まじまじと夫の顔を見つめた。人見知りをする寡黙な夫は、いつもなら説明を妻に任せ、自分は黙っていることが多い。けれど、その表情を見てプリスカは悟った。これはアクラなりの感謝なのだ。妻を助けてくれたことへの。彼女たちの親切に、夫は深く心を動かされていたのだ。


アクラが訥々と説明していると、フィベはさらに言葉を継いだ。なぜシナゴーグを去ることになったのか。なぜ、かつては近しかった者たちが、今は誰より激しく憎むのか。そして、フィベの言葉を借りれば―― 「人から虐待を受けてもなお、その不思議なよろこびを保てるのは、なぜか」。


アクラがその問いを胸の内で反芻していると、フィベが次の問いを投げかけた。


「会堂の隣の家で、あなたたちはだれを礼拝しているのですか」


アクラはひとつうなずくと、イエスについて語りはじめた。ひとつひとつ、ことばを選びながら、ゆっくりと。ときおり沈黙し、そのたびに作業台の端に置かれた傷のある革を、無意識に指先でなでた。ざらついた裂け目をたしかめるようなその手つきに、プリスカは夫らしい不器用な誠実さを感じたが、フィベとキュテレアが苛立ちはしないかと、ひそかに気をもんだ。


だがフィベは、澄んだ瞳でじっとアクラを見つめ、彼の言葉を――そしてその沈黙までも――乾いた大地が雨水を吸い込むように受け止めていった。


アクラはイエスの義なる生涯を語った。主が耐え忍ばれた苦しみと、人びとの罪のために死なれたこと―― それは、信じる者が罪から解き放たれ、父なる神の御前で、キリストと同じように正しい者とされるためだったのだと。


アクラの声が、店の中にゆっくりと満ちていく。プリスカは夫の話を背で聞きながら、大きな鍋で粥を作った。皆で食べられるように。そのとき、テモテが入ってきた。見知らぬ客に少し首を傾げたが、何も聞かず、プリスカの隣に立った。


ふたりは、扉の外でじっと女主人を待つ従者たちに、粥と香辛料で風味をつけたぶどう酒を運んだ。従者たちは礼を言い、湯気の立つ器を両手で恭しく受け取った。


店に戻ると、たそがれの光が窓から差し込んでいた。アクラはちょうど、イエスが三日目に死者の中からよみがえったところまで語り終えたところだった。


「ですから、死はもはや、わたしたちを支配する力を持ちません。何ものも、もはやわたしたちを以前のように絶望させることはできず、かつてのように心を傷つけることはできないのです」


アクラはひとつ息を吐くと、照れくさそうに、しかし誇らしげに笑った。


「それが、わたしたちのよろこびの理由なのです」


夫の満ち足りた笑顔を見て、プリスカは胸の奥で感嘆した。寡黙な夫が紡いだ福音のことば、ひとつひとつに、神の霊が宿っていた。それがどこかおかしく、そしてたまらなく嬉しくなって、プリスカは笑い出してしまった。


「ああ、アクラ。あなたって、ほんとうに……すばらしいわ」


そう言ってから隣のテモテを見ると、若者の顔も笑いで崩れ、ついに堪えきれず顔をそらせて大笑いした。


フィベは問いかけるように、半ば微笑みながらプリスカを見ていたが、やがてアクラに向かって手を差し出した。


「あなたはすばらしい説教者です」


「ええ、ほんとうに」


キュテレアも優雅に手を差し出した。


アクラは耳たぶを真っ赤にして、うつむいた。


その様子を見て、プリスカはケンクレアから来たふたりの婦人のことが、ますます好きになった。自分とテモテを驚かせた賜物を、フィベは正確に言い当ててくれたからだ。


「明日も参ります。明日、そのよろこびについてもっと教えてくださいな」


フィベはそう告げると、アクラとテモテに、そしてプリスカにも、親愛の接吻をした。キュテレアは貴重な亜麻布をプリスカの首に巻き付けた。柔らかな布が肌に触れ、ほのかな香油の香りが鼻をくすぐる。


従者たちが松明に火を灯し高く掲げた。肩にかけた吊り紐に輿の棒を通し、静かに去っていった。松明の火が揺れ、夕闇の中で小さくなっていく。


店に残った三人は、今日起こったすべてに感謝し、神へ賛美を捧げた。油皿の小さな炎が揺れ、外から夕暮れの風が吹き込んでくる。三人の声がひとつに重なり、小さな店は主の聖なる臨在に満たされていった。


🍇🍇🍇🍇🍇


God bless you✨

# by manawithpen | 2026-04-21 06:00

750 甘い香りの輿

ふわりと、甘い香りがプリスカを包んだ。清潔で温もりのある腕が背と膝裏に差し込まれ、彼女は赤ん坊のように軽々と抱き上げられた。


「わたしは……何も、何もしていません」


すすり泣きながら、プリスカは言った。


男が穏やかに聞き返す。


「何だって?」


「……あの人を傷つけるようなことは、何ひとつ」


「もちろん、そうだろう。もちろん」


その声はやわらかく、泣く子をあやすようにプリスカを包んだ。


「それで、あなたをどこへ連れていけばいいのか」


ゆっくりと、プリスカは目を開けた。太陽の光が眩しい。


目が慣れてくると、ソステネの姿が見えた。彼は下水に座り込み、煉瓦を握ったまま足を投げ出し、荒い息をついている。何が起こったのか理解できないという顔で通行人を見回していたが、やがて焦点の定まらぬ目を、プリスカを抱える男に向けた。だが、もう戦う気力は失っているようだった。


「あなたをどこへ連れていけばいいのか」


茶褐色に艶めく肌をした男は、ソステネには一瞥もくれず、プリスカの顔をのぞき込み、もう一度聞いた。


「あなたは、どこから来たのですか?」


プリスカは、どこから助けに来てくれたのかと尋ねたつもりだった。


「ヌビアだ。エジプトの南にある」


男は出身地を答えた。プリスカは二度まばたきをしたが、唇からは別の言葉が漏れた。


「歩けますから……家に帰れます」


降ろしてくださいと言う前に、男が続けた。


「そうだろうが、奥さまとお嬢さまが承知しないだろう」


「奥さまとお嬢さま?」


「あそこだ。あなたを待っておられる。ほら」


男の視線を追うと、一基の輿が止まっていた。垂れ幕が半分ほど巻き上げられ、その隙間からふたりの婦人が微笑んでいた。輿の担ぎ棒の脇には、同じ背丈の屈強な男たちが七人、整然と並んでいる。彼らの衣の赤が陽射しに映えて鮮やかだった。男も同じ赤をまとっている。


「奥さまとお嬢さまは、あなたの叫び声を聞かれたのです」


男はプリスカを抱きかかえたまま、輿へ向かった。


「あそこで転がっている太った愚か者に礼儀を叩き込めと、わたしをお遣わしになった。そして、あなたとご一緒したいと望んでおられる」


若い婦人がしなやかな手つきで垂れ幕をさらに巻き上げた。男はプリスカを慎重に輿の中へ下ろし、ふたりの間に座らせた。


「ああ、お気の毒に」


年配の婦人が包み込むような声で迎え入れた。目尻と口元に細かい笑いじわがあり、美しい頬の形をしている。


若い婦人は垂れ幕を下ろすと、聡明そうな茶色の瞳に微笑みをたたえ、一枚の布を差し出した。


「どうぞ。涙をお拭きになって」


差し出された亜麻布は、垂れ幕の隙間からこぼれる陽射しを受けて、真っ白に輝いて見えた。


――こんなに美しい手巾を汚すわけにはいかない。


躊躇するプリスカに、彼女はすっと身を寄せ、濡れた頬を拭った。それから手巾の端を唇で湿らせ、膝の擦り傷を丁寧に拭い始める。


「あなたを何とお呼びすればいいのかしら」


老婦人の凛とした声に、プリスカは思わず背筋を伸ばした。


「プリスカです」


「ではプリスカ。わたしはキュテレア。こちらは姪のフィベ」


傷の手当てに専心しているフィベは、顔を上げずに小さく頭を下げただけだった。


「これからケンクレアに戻るところだったのです。その前に、あなたを家まで送りましょう」


「大丈夫です。歩けます」


「どこに住んでいるのです?」


「……北の、市場です」


キュテレアは垂れ幕の端を少しめくり、外の男へ呼びかけた。


「マルクス。北の市場へ向かってちょうだい。それから、あの気の毒な御方を道の中央から引き上げてあげて。あのままにしておくのは、寝覚めが良くないから」


マルクスと呼ばれた男はすっと頭を下げると、ソステネの方へ向かった。


差し出されたオリーブ色の腕に、ソステネは一瞬ためらいを見せたが、黙ってその手にすがって立ち上がった。


垂れ幕が静かに揺れ、輿が動き出す。  


垂れ幕越しの陽射しは柔らかく、プリスカはふたりのぬくもりに挟まれ、ようやく肩の力を抜いた。遅れて、手の震えがほどけていった。


🍇🍇🍇🍇🍇


Jesus loves you 💕

# by manawithpen | 2026-04-20 06:00